2014年2月24日月曜日

My Love Song : Chapter.01 彼の人が残した詩





私の先祖がいつも口ずさんでいた歌がある。

それは相手を想うその人の、慈愛に満ちた気持ちがこもっているもの。
聴いている人々までもが幸せな気持ちになる。

そう、私の母がいつも言っていた。

その祖先とは私の曾祖母。残念ながら私は曾祖母のことはよくは知らない。
なので、彼女が歌っているのは聴いたことはないと思うのだけれど
私が小さい頃、母が子守唄代わりによく歌ってくれたものだった。


曾祖母が歌に込めた想いは誰に向けたものだったのだろう・・・
そう幼心でも謎めいたものを感じながら、いつも夢の世界へと誘われた。







「ここがツインブルックね?わぁ・・・綺麗な街だわ!」
「おい、到着早々はしゃぐなよ・・・」

恥ずかしいやつ・・・なんて呟きが後ろから聞こえたけれど、いつものことだから気にならない。
そんなことよりも、私は初めて見た素晴らしい景色に見惚れてしまっていた。






















「こんなにレトロで素敵なコテージまで用意して下さったのね!さすが貴方の大おばあ様だわ」
 
小さい頃から母に窘められてはいたのだけれど、ついつい、語尾に音符でも尽きそうなくらいはしゃいでしまう。
私の悪いクセ。
 
でも昔、誰かに「   にソックリだ」って言われたような気がするのだけれど、あれは誰だったのかしら・・・




「あのな?お嬢の言う『レトロ』は、普通は俺んちやお嬢の家のことを言うのだと思うんだけど?」
「え?そう・・・なの?」

彼の言葉に思わず首をかしげてしまった。




私は以前から、ある目的のために自分の住む首都から出たがっていた。
しかし、親戚達は、私が生家であるデュラット家の次期当主であり、学生だったこともありで
挙って反対していたのだ。























「全く・・・相変わらず世間知らずなんだな。うちの大祖母が心配するのも分かる気がするよ」

ふふっ・・・と、笑みをこぼすこの男性は私の遠い親戚で、私のお目付役。ジョヴァンニ・ゴーチェ。
彼は名門ゴーチェ家の3男。末っ子だから気楽なのだと、彼はいつも言っているが
年が近かったせいもあって私が学生の頃から執事の真似事をしてくれている。

要は世話好きなのだろう。





 「あら?私だって常識くらいはあるわよ?幼馴染みの貴方なら知っているでしょ?ジョニィ?」

彼の欠点はお小言がやたらと長いこと。
そんな時は彼の嫌がる呼び名で呼ぶといいのよ。フフッ





「あのな?誰のお陰で旅に出られたと思ってるんだい?俺は今すぐにでも帰って良いんだぞ?」



 「あら!それは願ったり叶ったりだわね。じゃあ、貴方は帰って良いわよ。」



「お嬢を置いて帰るだなんて・・・この俺が出来るわけないだろ?
 そんなことがあのババァ共に知れたらどんな目に遭わされるか・・・」

この問答は学生の頃から繰り返しているので、もはや挨拶みたいになっている。

「見栄えのいい顔をしてるのに面倒くさい男ね。」とは、私の学生時代の友人の言葉だ。
よく分からないが・・・たぶんその言葉どおりなのだろう。

それにしても・・・あの、彼の大おばあ様をそんなふうに呼んでいるだなんて・・・
彼の命知らずな気質は血筋なのだろうか?



 
「なら、着いた早々にお小言はやめて」
「・・・・・・」
 
はぁ・・・・・・と、ため息が重なって聞こえた。
 


 思わず無言で見つめ合ってしまう。



「じゃ、お小言も止んだことだし、早速例の方に会いに行きましょう!」
「切り替え早いな、おい・・・・・・」

突然踵を返した私の背に向かって、彼のため息がまた聞こえた気がした。





私の祖先について、何か知っているかも知れない人物がこの街に住んでいるとの情報があった。
その人は街外れの湿地帯に住んでいるらしい。



「・・・・・・こんな所に人が住めるのかしら?!」

俺んちの本家の情報網なのだから間違いはないはずだ。ジョヴァンニはそう静かに答えた。



「情報によるとこの家のようだが・・・・・・」
「着いたのね!はやく、行きましょう!」

私はタクシーから勢いよく飛び出して、目の前に見える家へと走り出した。







「お嬢、待て!なにか変な音がしているし、何があるか分からないんだぞ!?」
 
私のルーツを知っているかも知れない人に会える。
その事実だけが私を突き動かしていて他の事は耳に入りもしなかった。
 
 
 
辺りには何かを削るような音が響いている。

ドアをノックをしてみたものの反応がない。
首をかしげているとこの家の横の方からカンッ!カンッ!と、いう音が聞こえてきた。



 「居たわ!あの人ね?」

追いついたジョニィが何かの気配を感じて振り返っている隙に、私は家主の所へと向かう。



 「だから、待てといってるだろ!って、あの気配は犬かよっ!
 俺は執事見習いであって護衛じゃないって言ってんだろ、あのくそ大祖母ーっ!」

私今忙しいし、ジョニィの嘆きには聞こえないふりをしてあげた方が良さそうね?









「あの、トリヴァーさん?」

 
見かけた背中に向かって話しかけてみたものの、どうやら聞こえていないらしい。
カツンカツンという音は、どうやら鑿を叩く時の音だったようだ。
 
 
 
 「あの、トリヴァーさんのお宅はこちらでしょうか?」

と、再度尋ねてみるがやはり聞こえていないようだ。



 「おい、そこの人。トリヴァーさんのお宅はここなんだろ?」

途方に暮れているとポストにある家名を見てきたらしいジョニィが助け船を出してくれる。
しかし・・・・・

創作活動にもの凄く集中しているらしい彼は、チラリと一瞬だけ振り返った後、

「トリヴァーは私だが・・・今は見ての通り手が離せないんだ。二、三日後にまた来てくれ」

とだけ答えて、また鑿を振るいだした。
なんだか気難しそうな雰囲気の方のようだ。

芸術家の集中力とはこんなにも凄いものなのか・・・・と、固唾を飲んで見守っていると
「犬たちと家賃のためだ頑張るぞ・・・・・」と、彼がボソッとつぶやいたのが聞こえてしまった。
意外と、この芸術家は可愛らしい人なのかもしれない。

創作活動を見ていても彼の気を散らすだけだろうから。
と、ジョニィに言われて、その日はお暇することになった。



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前回の記事には補足を書かなかったので、かなり意味不明な記事になってしまった気もしますが
唐突に始まった新企画でございます。
ド素人丸出しの拙文を読んで下さりありがとうございます。

前回のChapter0にて語り手として登場したトリヴァーが登場したところで、次回へ続く。であります。
ド素人ならではの撮影裏話は多々ありますが、その辺りは本館の方に雑記で書こうかと。
いや、管理人的には一記事で2度(2記事分)美味しいとかそんなこと考えてませんヨ?(笑)

しかし、この物語についての補足を少々。
この物語は、本館にて『オスカー様の誕生日企画(略してオス誕(笑)』として、
拙いながらも形にしたショートストーリーを根底に置いています。
なので、本館のレビュー用メイン世帯のごく一部のメンバーが登場する予定です。

そして、登場人物については別ページを設けられたらと考えていますが、
この物語の主人公は、『お嬢』と呼ばれている女性です。
名前はまだないじゃなくて、物語が進んだら出てくる予定ですので、少々お待ち下さいませ。
語り手はお嬢のお付きの男性あたりに任せることもあるかもです。

彼、ジョヴァンニ(以降ジョニィ)は、もの凄く本館的にアレな血筋を混ぜているので、
彼の言う『大祖母さん』は、本館のレビュー以上に出番があるかもしれません(笑)

※追記です。ストーリー目次&概要のページへ補足文を再掲載しましたので
 重複してしまう箇所もございますが、宜しかったらそちらもご一読下さいませ。

ではでは、拙文ではございますが楽しんで創作していこうと思ってますので
どうぞ宜しくお願い致します!


2014年2月22日土曜日

My Love Song : Chapter.00 Artist

某月某日。とある街の郊外に佇む質素な邸にて。









愛犬たちが戯れている中。私は一人黙々と創作にうちこんでいた。
そもそも彫刻は私の専門外なのだが・・・


いつも2匹で駆けずり回って遊んでいる愛犬たちが、私の存在をやっと思い出したようだ。


「やぁ、お前達。やっと僕と遊んでくれるのかい?」

声を掛けてみると2匹とも私の方を見ながら更に近づいてくる。
 
 


だが、そのまま通り過ぎていってしまった・・・。
どうやら私の犬たちは、私の存在が見えないようだ。


苦笑しながら犬たちを見送っていると滅多にならない携帯が音を立てて私を急かす。


着信を知らせるディスプレイには、この街の市長の名前が表示されている。
出ないわけにはいかないか・・・・・・


「・・・はい、トリヴァーです。」
『やぁ、忙しいところすまない。君に依頼した例の彫刻の進み具合が気になってな』


「えぇ、順調に進んでますよ。今、大体8割くらいでしょうか」
『おぉ!さすがは天才芸術家スコット・トリヴァーと言うところか!それは完成が楽しみだ』

後ろに聳え立つ石の塊を無視して適当に答えたら、市長はありきたりな賛辞を熟々と並べ立て
やたらご機嫌そうだ。



 
  『では、この調子で頼むよ。君にはこの街の住民達も期待しているのだからな!』
「は、はぁ・・・」

ガッハッハ!と、市長にあるまじき下品な笑い声と共に、通話は一方的に切られてしまった。
 


八割方が未完成だ。なんてばか正直に言う必要もないだろうが、急いだ方が良さそうだ。

あの市長には住む場所の世話などもしてもらってるのだが、どうも波長が合わない。
いや、あの市長に合わせられるのは金や権力目当てで近寄っている人だけだろう。


飼い主の切羽詰まった状況も、全く構うことのないうちの犬たちは気楽だ。
  


 その暢気さがもの凄く羨ましいが、私は現実逃避している場合ではない。


ペットというのは多頭飼いだと飼い主は無視される運命だろう。
だが、彼らとの生活には創作意欲をかき立てられる何かがある。だからこそ一緒に居るのだ。


創作に打ち込む私を遠くから見守ってくれているのも、なかなかに良いものだと思う。
付かず離れず。その距離感が私には良いのかもしれない。


交流はなくても、彼らのおかげで私は一人じゃないのだから。


創作の合間に街へ買い出に行った際にボールも買ってきたのだが、
どうやら気に入ってくれたようだ。


「ポチ、はしゃぎすぎて怪我するなよ?」


私がそう言ったところで、普段からヤンチャな彼には効果があるかどうか・・・


と、数秒後にはこの有様だった。残念ながら効果はなかったようだ。
元々身体の大きな犬は遊ぶことが大好きだから致し方ないのだろう。


「ポチ?怪我したのなら獣医の所に連れて行くぞ?」


苦笑しながら声を掛けた途端に犬は飛び起き。拒否を示すかのように頭を左右に振っている。
獣医という単語を恐いものだと認識しているようで、いつもこの調子だ。


シベリアン・ハスキーは飼いやすいが、わりと繊細なのだろう。
気は優しくて力持ち・・・・・か。まさにその典型かな?

けれど、目先のオモチャに目がないのはペット共通だろう。





現実逃避している、犬ばかの手記のようになっているが、彫刻の納期は忘れたわけではない。
けっして、ないぞ! 
 


学生のような言い訳を並べ立てているが、私はやれば出来る子というわけではないのだからな。
やらなくて良いならやらないが。

無難にこなして無難に生きていくだけ。
私の人生における目標は、ただそれだけ。
それだけ・・・・・・だった。